2018年8月1日
カバナンス強化に向けた社外取締役の課題~ACS便りNo.30
〈成田山新勝寺の表参道〉
大変お世話になっております。株式会社ACSの淡路です。
『ACS便りNo.30(2018/8/1)』を送付します。
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今回のテーマは、改定されたコーポレートガバナンス・コードへの対応方針と、ガバナンスを強化
するための「社外取締役」の課題について考えてみたいと思います。
1.コーポレートガバナンス・コード改定への対応
①コーポレートガバナンス・コード改定の主な内容
☒東京証券取引所は、6月総会開催直前の6月1日に、全上場企業に適用する企業統治方針
(コーポレートガバナンス・コード)の改訂版を公表し、同日から適用して今年12月まで
に取組み状況の開示を求めている。
◎コーポレートガバナンス・コードの主な改定内容 ※☞は筆者の個人的な見解
■政策保有株の縮減
・資本コストに見合うか検証して縮減
・売却の意思が示されれば相手はそれを妨げない
☞日本の企業慣行である、長期取引のコミットメントとして機能している面や
企業価値を棄損させようとするアクティビストから企業を防衛する意味合い
を考慮して保有の可否を判断すべきであり、「縮減ありき」ではない
■企業年金運用の体制確立
・適切な人材配置で運用の専門性を高めて取り組みを開示
■取締役会の機能発揮
・客観的で透明性のある経営陣の報酬制度を設計
・経営トップの選解任の手続の確立
☞解任手続を事前に設定する必要があるのか疑問
・独立社外取締役は2人以上。必要なら3分の1以上選任
☞社外取締役が役割を十分に果たしていないという指摘があり、
人数よりその実効性を高めることを優先すべき
・女性や外国人など多様性を確保
■経営戦略の明示
・事業ポートフォリオの見直し、設備投資、研究開発費、経営資源見直しの明示
☞これらは経営戦略の根幹をなすもので企業秘密が多いため、どこまで開示
可能か疑問
・資本コストを的確に把握
②改定への対応方針
☒各社の対応
2015年に制定された企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)では、企業はこの
指針に従うか、指針どおりに実施しない場合はその理由を説明するかを選択するという、
これまでにない対応を求められた。
当時は初めてのことなので73項目全てについて指針どおりに実施しようとする上場企業が
多数見られたが、直近の東京証券取引所の調査では73項目全てで決められたとおりに実施
する企業は26%にとどまり、4分の3の企業は自ら独自の統治方法を構築して開示して
いる。
◎企業統治指針にとらわれない統治方法の実例
■経営計画の公表
・事業環境の変化が早く予測困難なため作らず
(LINE、DeNA、SUMCO)
■政策保有株の削減
・持続的成長や価値向上につながり保有(アサヒグループHD)
・業務提携など事業上必要な場合に保有(ドトル日レス)
・持続的な発展のためには協力関係が不可欠で保有(松竹)
■後継者計画の策定
・早期に後継者ポストが確定することに弊害がある(ダスキン)
■株主総会招集通知の英訳
・海外株主が少なく不要(マルハニチロ、コメダ)
☒独自のガバナンスの確立
そもそも企業統治指針はそれに従うか、従わなければその理由を説明すればよいことに
なっており、各社のガバナンスは画一的である必要はない。
さらに、企業統治指針の改定内容について様々な異論がある点や各社が実際に独自の企業
統治体制を打ち出している点を考慮すれば、その会社にふさわしい独自のガバナンス体制
を構築して開示し、株主に説明すべきである。
2.ガバナンス強化に向けた社外取締役の問題点と課題
①問題点
☒「複数の社外取締役によるガバナンス向上」は企業統治指針の中核をなすものであり、
東証1部上場企業の88%に複数の独立した社外取締役がおり、取締役の3分の1以上
を社外が占める企業も27%に達している。
つまり、形式的・量的には社外取締役制度は整備されてきた。
☒しかしながら、その役割は、社内の利害関係に縛られず、第三者の視点から経営を
チェック(監視)するという抽象的な内容しか示されておらず、その役割を十分に
果たしていないという指摘も多い。
◎「社外取締役 再任基準を 経産省指針改定へ 企業統治に実効性」
【日本経済新聞 2018年6月17日(日曜日)】
・経済産業省は今夏を目途に、2017年3月にまとめた「コーポレート・
ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を
改定し、新たに社外取締役の再任基準についての項目を設ける
・経産省のアンケートでは、1割ほどの企業で「社外取締役が役割を
果たしていない」との意見がある。また、社長やCEOの選定・解職に
社外取締役が「役割を果たしていない」か「役割をあまり果たしていない」
とした企業は1割弱。「何方ともいえない」との企業が3割もある。
・経産省が指摘する社外取締役の問題点
専門知識の不足、取締役会の出席率が低い、専門性に基づいた経営に関する
助言がほとんどできない、社長などの経営トップが選んだ社外取締役は経営
トップの解任が進言しにくい、社外取締役として十分な働きをしても厳しい
態度から経営層に疎まれて解任につながる、取締役会の議長を社内で仕切る
と都合の悪い議題は避けられる等
②課題
☒全ての上場企業に共通する企業統治の決め手が「社外取締役の十分な役割発揮」である
ことに異論はない。
一方で、社外取締役によるガバナンスがきちんと機能するのかは以下のような場面での
経営トップと社外取締役の意識と行動で決まると言っても過言ではない。
すなわち、経営の重要テーマ(経営戦略、中期経営計画、事業投資等)を討議する
取締役会で経営トップと社外取締役の意見が対立した場合、先ず社外取締役が自らの
役割を認識して経営トップを説得しようとするか?次にその話に経営トップが冷静に
耳を傾け、納得したら自説を修正するか?
(社外取締役は、経営トップが実質的にその就任の可否、任期、報酬額等を握っている
ためよほどの覚悟がないと務まらない)
☒今後のガバナンス強化に向けた社外取締役については、このように突っ込んだ検討が
不可欠。また、外国人株主が少なく、投資家や取引所がうるさいからいやいや社外取締役
を起用している会社にとっても避けて通れない問題になってくる。
☒そこで、会社法や東京証券取引所の規則が求める「社外性」や「独立役員」の基準を
満たした上で、社外取締役に求められる属性・知識や役割、さらには社外取締役が
十分に機能するために必要な経営トップの意識や会社が用意すべき環境について
以下に私見を記載する。
この考えや経産省が出すCGSガイドラインを参考にして、『社外取締役の機能強化』
を検討し、自社が重点的に取り組む、独自のガバナンスとして開示してはいかがだろうか?
◎社外取締役に求められる属性・知識
■属性
・経営トップの友人ではない☞経営トップに遠慮なく進言できるようにするため
・他に本職を持っている☞会社に遠慮しないで意見が言える
・取締役会の出席率100%が可能
■基礎知識
・業界知識☞企業によっては必須のところあり
・経営の一般的知識
企業価値・株主価値の向上と棄損、各ステークホルダーの利害、取締役会の
意思決定に求められる経営判断原則、経営戦略・事業戦略、中期経営計画、
事業投資等
■専門知識
・取締役会の決議事項や報告事項をチェックする専門知識
◎社外取締役の役割
■経営が順調な時(平時)
・意思決定の際に外部の人間が関与することで組織に緊張感が与える
■経営危機の時(非常時)
・戦略の見直し、事業の撤退、投資の凍結、リスクの開示等で経営トップと
意見が対立する場合に勇気を持って正論を主張して経営トップを説得。
それができなかった場合は勇気を持って取締役会の決議事項に反対票を投じる
⇒数で負けた場合の最終手段は「辞任表明」
■後継者選び
・平時の後継者選びは、指名をCEOの責任で行い、社外取締役は選考の過程を
丁寧に監視
・社長が居座り交代させなければならないケースでは、後任候補は社外取締役
主導で決定
◎経営トップの意識
■社外取締役の異なる意見をガバナンス上必要なものとして冷静に真摯に聞く
(これはまさに取締役会メンバーの多様性)
◎会社が用意する環境
■社外取締役と会社の意見が対立した時に、社内での業務調査や情報収集を認める。
具体的には、社外取締役を支える実務担当者を置く、社外取締役が弁護士や会計士
等社外の専門家と独自に意見を交わすことができるようにする等
■社外取締役が取締役会の議長を務める(日立が実施)
(参 考)
今年の6月総会の振り返り~株主総会は「経営陣の経営力を株主と対話する場」に変貌
☒2010年からの企業の議決権行使結果の開示、昨年からの機関投資家の個別議案の賛否
開示等で株主のためにならないと判断する議案へは、株主が積極的に反対票を投じる
傾向が強まった。
☒このような株主の意識の変化を背景に、今年の6月の株主総会は、大型再編(出水興産)
や巨額買収(武田薬品工業)等の経営戦略の正当性を訴える経営陣と経営者の手腕を問う
株主の緊迫した対話の場になった。
◎今年の6月総会で問われたテーマ
■株主提案
伊藤忠 :自己株式の消却
アルパイン:増配、社外取締役選任
TBSHD:持ち合い株を株主に配分
みずほFG:役員報酬の個別開示
■復活を期する
東芝 :債務超過からの脱却
三菱自動車:ルノー、日産との協業強化
■成長戦略
トヨタ :電動化、自動運転
ソニー :AIとロボット技術
ソフトバンク:世界の「ユニコーン」に投資
日立 :デジタル強化
■不祥事謝罪
SUBARU:完成車検査の不正問題
神戸製鋼所:アルミ・銅製部材の品質不正
☒今年は、「株主に信任されるように大胆な戦略を打ち出し、総会ではその是非を問い、
株主との対話を経て戦略を修正するという、経営陣と株主の新たな関係が始まった年」
であり、株主総会が「あるべき姿に近づいた年」でもあった。
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