2017年8月15日
IT業界の今後の展望
“どうなる!?システムインテグレーター業界(3)”~ACS便りNo.18
株式会社ACSの淡路です。
『ACS便りNo.18(2017/8/15)』を送付します。
また、2017年9月1日発売の『COMPANY TANK 2017年9月号(国際情報マネジメント有限会社発行)』に、元読売巨人軍で野球評論家の吉村禎章氏との対談記事が掲載されますが、一足早くそのPDFを
入手したので公開しています。(http://acs523.co.jp/news/news_141)
よろしければご一読願います。
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7月6日に『システムインテグレーター業界(以下 SI業界)の今後の展望』というテーマでセミナー を行い、その内容を2回にわたってACS便りで 説明してきました。
今回は、過去から引きずる課題の展望として、 『不採算案件の発生』、『海外事業の展開』、 『業界再編とM&A』についてセミナーで話した 内容を記載します。
下記の資料をご参照しながらご一読をお願いいた します。
【掲載資料】http://acs523.co.jp/news/news_124/
1.不採算案件の発生~なぜ撲滅できないのか?(資料P20~P23)
①不採算案件とは?
☒定義
不採算案件とは、プロジェクトの完了時点で見込まれる赤字を期毎に見積もり、B/Sの受注損失引当金(または工事損失引
当金)に残高を計上するもの(2009年度決算から適用、それまでは発生した赤字だけ計上)
☒不採算額の取り扱いと把握
■2年にまたがるプロジェクトの1年目に見積もった赤字より2年目に見積もった赤字が拡大した場合
その差額は2年目に受注損失引当金の繰入額として売上原価に計上。ただし、この金額は非開示であるため、B/Sの受注損
失引当金の残高の変動で不採算案件発生の有無と不採算額を推計するしかない
■赤字発生の原因が、お客様の要望した仕様変更で追加料金の支払が見込まれる場合
売上高が増加し、見込まれる赤字は改善
■売上高が計上されて不採算が実損になった段階で取り崩し
②不採算案件発生の推移(2012年度~2016年度)
業績に大きな影響を与える不採算案件は、以下のとおり毎年のように各社で発生している。
■2013年度:CACHD〔299〕、SRAHD 〔235〕
■2014年度:NRI〔828〕、CTC〔464〕、 SRAHD〔246〕
■2015年度:NTTデータ〔3,150〕、SCSK 〔957〕、ISID〔945〕
■2016年度:TIS〔907〕、NSSOL〔919〕、 富士ソフト〔160〕
※〔 〕は受注損失引当金の残高増加額で金額単位は百万円
③不採算案件はなぜ発生するのか?
☒仕様の広さ(どの範囲までやるのか)と深さ(どの程度までやるのか〔例えば検査方法〕)について、お客様とSIerの
間で認識のギャップが構造的に発生
■お客様の追加の作業依頼は、予め決めた仕様の「中」なのか、「外」なのか?
・お客様は追加費用を払いたくない、 予算が決まっていて払えない ⇒「中」と主張
・SIerは追加費用を支払ってほしい⇒「外」と主張
■仕様の具体性
・お客様は仕様が抽象的な方が追加費用が発生しにくくなるので有利
・SIerは極力具体的にして対象範囲を明確にし、範囲外の作業は追加料金を請求したい
■お客様がスケジュールどおりに仕様を決められない
☒見積りの間違い
新規顧客の案件や新技術を使う案件では、工数の見積りを過少に間違えて不採算になる ケースが多い
☒適切な生産体制が取れない
プロジェクトの規模により、PM(プロジェ クトマネージャー)に求められるマネジメントスキルは大きく異なる。そのプロ
ジェクトに適したPMが配置できないと不採算案件となる ケースが多い
④不採算案件を撲滅する可能性
☒不採算案件が再発するパターン
■不採算案件収束後にトップも交えて総括し、発生要因を特定し、再発防止策を検討して その後のプロジェクトに適用(受注
リスクを審査する社長直轄組織の設置、開発工程の管理強化等に取り組む)
■しかし、数年後に不採算案件が再発。その発生要因は以下のとおり
・再発防止策が時間の経過とともに不徹底。 危機感の薄れにより再発防止策が形式化
・受注環境悪化による案件不足から毒饅頭(不採算になりやすい案件)に手を出す
・上記の仕様に関するお客様とSIerの 認識ギャップは構造的な問題であるため、この解消は困難
☒不採算案件発生の構造的な要因である、お客様の仕様決定が受託開発では避けられない点と、不採算の発生リスクが高い
大型案件を実際に経験しないと、技術力もマネジメント力も向上しない点を考慮すると、不採算案件を撲滅することは難し
い。発生頻度と不採算金額を少しでも減らすことに注力するしかない
2.海外事業の展開~なぜうまくいかないのか?(資料P24~P27)
①海外事業の現状
過去2年間(2015年度・2016年度)で海外売上高が総売上高の10%以上だったのは、SIer14社中わずか2社
(NTTデータとCACHD)だけで、グローバル化に出遅れている業界
②海外事業がうまくいかない原因
☒SI事業の特殊性
■全てのシステムをスクラッチで開発するのは日本だけ。米国をはじめとする海外の IT投資は、本業の競争力強化・付加
価値向上のための「攻めのIT投資」はスクラッチ開発。それ以外の業務システムの構築は「守りのIT投資」でPKGや
ERPで対応。「システム」に仕事を合わせて生産性向上
⇒日本で培った受託開発のノウハウを海外の現地企業のシステム開発に活かせない
■米国ではIT技術者はユーザー側に7割いるが、日本は7割以上ベンダーに偏在。米国では、システムの開発・導入・運用
を自社 内のエンジニアが行うのが原則で、日本のようにSIerにアウトソースして一切を任すこと がない
⇒米国にはSIのニーズがほとんどない
☒海外進出の形態
■上記の事情から、海外の現地企業を対象にしたビジネスは困難なため、日本企業の海外進出に合わせ、そのシステム開発を
受託する海外子会社を設立
■中国・インド等のアジア圏のシステム開発会社をオフショアの受け皿としてグループ会社化(中国は人件費高騰、インドは
言葉の壁等の問題で上手くいかず)
■海外企業を対象にM&Aを実施するも、特に中堅を中心に減損損失等を計上(M&Aに不慣れでノウハウ・スキル不足、
海外企業のM&Aのハードルの高さ)
③海外事業の今後の取り組み
業界各社は現行の中期経営計画で海外事業戦略を掲げているが、海外事業で実績のあるNTTデータと、事業戦略に具体性の
あるNRIは海外事業拡大の期待が持てる
3.業界再編とM&A~業界再編はありうるのか?(資料P28~P30)
①かつて言われていた業界再編の必要性
☒多すぎるプレイヤーを適正な数に集約
上場している年間売上高1,000億円以上の会社が20社近くあり、年間売上100億円以上の会社も70数社あって、業界の会社数が
多すぎる
☒業界再編で業界が抱える問題を解消
ゼネコン的な多重下請構造、丸投げ、不採算案件の発生、プロジェクトマネジメント不在、事業規模が小さいと大規模案件の
プライム(一次請け)が受注できない、受託開発の構造変化に対応できない等の問題を業界再編で解決
②SIer同士の経営統合のメリット(製造業の同一業種同士の経営統合との比較)
☒共通点
シェアアップ、重複部門(スタッフ部門)のスリム化
☒相違点
■製造業:工場再編、研究開発費の負担軽減、ボリュームメリットによる原材料費・部品費の低減等
■SIer:優秀な技術者確保
⇒SIer同士の経営統合の方がメリットは少ない
③2000年以降の業界再編
☒以下の3件の再編事例の中では、統合時の経営目標を早期に達成し、好業績をキープしているのはSCSKのみ
■伊藤忠テクノサイエンスとCRCソリューションズの合併(2005年10月1日)
■TISとインテックHDが経営統合し、ITHDを設立(2008年4月1日)
■住商情報システム(SCS)とCSKが合併(2011年10月1日 )
④今後の業界再編の可能性
☒SI業界の特徴
■少子高齢化で国内マーケットはシュリンクしていく業界
■現在のビジネスモデルは限界収益に近く、成熟化の進んでいる業界
■受託開発からサービス提供型への転換が避けられない業界
■業界再編の成功例が極めて少ない業界
☒業界再編の可能性
受託開発ビジネスの縮小が業界の共通認識になっている中、コストを掛けてまで業界再編を行うメリットは見当たらず、
業界再編の可能性は低い
⑤業界におけるM&Aの可能性
大手SIerがビジネスモデル変革のためのリソース戦略(技術者確保策)等として、特定分野に強みのある、好業績の中堅
SIerをM&Aする可能性はあり
【ビジネス豆知識】 今回はお休みします。
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